2025/05/27 14:05
2021年に書き下ろしで出版した「壁の前でうたをうたう」。
店主であるわたしが、その前の年にお隣に越してきたひとつの家族、日本人のお父さんコーへーさん、リトアニア人のお母さんVika、その2人の間に生まれた娘さんUtaちゃんと出会いから、小さな日々を見つめる中で生まれた気づきを書き綴った一冊です。(もともと家族をテーマに文章をいろいろ書いていまして、家族を見つめるということはこの社会を見つめることに繋がっている、と思っています)
本の出版と同時に制作した
Movieを5月いっぱい、無料で公開します。
(以下のリンクからご覧いただけます。)
当時はコロナ禍、好きな場所に行ったり好きな人に会ったり、好きなことをすることも憚られるような空気の中で、
わたしたちが暮らしていた藤野では子どもたちが変わらず遊びまわり、山も鳥も虫も変わらずそこに在り、そんな変わらないものたちを見ながら、暮らし方、生き方、いろんなことを考える時間がたくさんあるような日々でした。
そして、ウクライナとロシアの戦争が始まりました。
戦争が始まった、というニュースを聞いた日、
わたしの暮らす家の目の前にある湖に大きな虹がかかっていました。その虹を見ながら、答えのないことをずっとずっと考えていました。
答えになんて到底届かないことを「わかんない」「知らない」と投げ出してしまうことはしたくない、とわたしは「壁の前でうたをうたう」を書き始めました。
言葉、こころ、国、大人、子ども、戦争。
考え続けたことは今も答えに届くことなく、願った平和にも届くことなく、2025年の今があります。
今年、この本の登場人物であり、主人公の一人でもあるVikaのフォトブックが韓国のレーベルより出版されました。
Vikaはずっと、フィルムカメラで写真を撮り続けていて、気づかなかった日常のきらめきとユーモア、世界へのみずみずしい眼差しを感じるとても魅力的な写真たちなのです。
(ほんとうに魅力的なので「壁の前でうたをうたう」の中でも数点使わせてもらいました。)
自覚すると胸が痛い、そんなことに気づかせてくれて、全力で分断にあらがいたい、と決意させてくれた。
積み重なってきたある家族のいとなみに触れること。
そのことが、今も止めようもなく起きているぐちゃぐちゃな世界の中で、目を逸らさず、心を持って、日々を生きていくための、小さな、だけれど力強いお守りみたいになってくれたらいいな、と願います。